福岡地方裁判所飯塚支部 昭和33年(ワ)137号 判決 1959年7月27日
原告
国
右代表者法務大臣
井野碩哉
右指定代理人
福岡法務局訟務部長
小林定人
同局法務事務官
林正治
同
元永文雄
福岡国税局大蔵事務官
阿久津三郎
田川市大字弓削田二千八百番地
(登記簿上の住所)同所四千二百八十番地
被告
菅正雄
右訴訟代理人弁護士
高木定義
昭和三十三年(ワ)第百三十七号詐害行為取消請求事件
最終口頭弁論期日昭和三十四年七月十三日
主文
訴外衣斐直彦が昭和三十一年九月十六日飯塚市飯塚九百十三番の三家屋番号宮の下二百三十五、木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二十坪五合を被告に譲渡した行為は取消す。
被告は訴外飯塚市飯塚九百十三番の三衣斐直彦に対し前記建物につき所有権移転登記をしなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告指定代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、
一、訴外衣斐直彦は、昭和三十一年七月十六日現在に於て、所得税並びにその加算税、利子税等合計金百十六万七千九百二円を滞納している。
二、然るに、右訴外人は、昭和三十一年七月十六日、前記国税に基く滞納処分による差押えを免れるため、故意に主文記載の不動産(以下本件建物と云う)を被告に譲渡した、その結果同訴外人は、飯塚市飯塚九百十三番の三家屋番号宮の下二百三十四番の二木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十二坪外二階十二坪(価格五十一万三千円)を除くの外資産を有しなくなつた
三、よつて、原告は、国税徴収法第十五条によつて右訴外人と被告間の本件建物の譲渡行為を取消すと共に、右不動産は被告の所有名義になっているから主文第二項記載の如き登記手続を求めるため本訴に及ぶ、と述べ、
四、被告の主張に対し、本件建物につき、被告主張のような登記がなされていること、訴外大蔵清嵩が、競落により所有権を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する、本件建物は、昭和二十九年九月二十四日、大蔵清嵩から訴外衣斐直彦が買受け所有者となったが、藤原ハツ名義に仮装の所有権移転登記をなしたものである。と附陳し、
立証として、甲第一乃至第四号証(第一号証と第二号証は各一、二)を提出し、証人大倉慎三郎、阿久津三郎の尋問を求め、乙号各証の成立を認むと述べた。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、
一、本件訴訟は詐害行為取消訴訟であるところ、
(イ) 被告とすべき当事者に誤りがある、この種訴訟は、被告とすべき当事者は、債務者及譲受人を共同被告とせねばならないのに右に出でない本件は失当である。
(ロ) この取消請求をなすには、債務者に対し多数債権者の競合がなくてはならないのに、本件訴訟はその主張がないので失当である。
二、答弁として、請求原因事実中、第一項は不知、第二項、第三項は否認する。
三、本件建物は、適去に被告所有になつたものである。
公薄をみるに、
(イ) 昭和七年十月二十八日訴外小森惣十郎が所有権保存登記をなし、
(ロ) 昭和十三年二月二十一日訴外大倉清嵩が競落により所有権を取得し、
(ハ) 昭和二十九年中訴外藤原ハツは右大倉から買受け、その登記は同年十月十一日なされ、
(ニ) 右藤原は、昭和三十一年七月十七日被告に売渡しその登記を了している。
而して、右の各譲渡行為はいずれも正当な行為であるから、訴外衣斐直彦の所有であつたことは未だ曽てないところである。
と述べ、
立証として、乙第一乃至第五号証(第四号証は一乃至三、第五号証は一乃至五)を提出し、証人衣斐直彦、衣斐美知枝、藤原ハツ(第一、二回)、大蔵清嵩、菅行江、原光次、被告本人の尋問を求め、甲号各証はいずれも不知と答えた。
理由
一、本件訴訟が、国税徴収法第十五条に基く詐害行為取消訴訟であることは、原告の主張自体によつて明らかであるところ、この種の訴訟に於ては、本件の如き請求の場合は譲受人のみを被告として訴えて差支えなく、又、債務者に対し多数債権者の競合はその要件ではないものと解する、従て被告の本案前のこの点に関する抗弁は理由がない。
二、そこで、本案について判断するに、
本件建物が元訴外大倉清嵩の所有であつたことは当事者間争いのないところである。
然るに、右大倉から訴外衣斐直彦が買受けたかどうかが問題の中心になるところであるからこの点について考えてみよう。
証人阿久津三郎の供述によつて成立を認められる甲第三号証(同人が大蔵事務官として菅正雄に対する質問応答書)、同第四号証(同じく大倉慎三郎に対する質問応答書)及同証人の供述に前記争いなき事実と成立に争いなき乙第一号証並に弁論の全趣旨を綜合すれば、本件建物は、大倉清嵩から訴外衣斐直彦が買受け、その登記だけは仮装的に藤原ハツ名義に所有権移転登記した事実を認めることができる。
右の認定に牴触する証人大倉慎三郎、衣斐直彦、衣斐美知枝、藤原ハツ(第一、二回)、大倉清嵩、菅行江、原光次、被告本人の各供述部分は措信することはできない。乙第一、第二、第三、第五号証の一乃至五も前記の認定をなす妨げとはならない。
三、請求原因第一項の事実は、成立を認められる甲第一号証の一、二により認められる。
四、以上認定の諸事実及成立を認められる甲第二号証の一、二、前記甲第三号証及弁論の全趣旨を綜合すれば、請求原因第二項の事実を認定或は推認することができる。
右認定に牴触する証人衣斐直彦、衣斐美知枝、藤原ハツ(第一、二回)、菅行江、被告本人の各供述部分は措信しない。
五、本件建物が、登記簿上被告の所有名義になつていることは、前記乙第一号証により明らかであり、以上の各事実によれば、原告が被告に対し国税徴収法第十五条に基く本訴請求は正当として之を認容しなければならない。
よつて、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小出吉次)